速読多読 佐藤優著 資本主義の極意

速読多読 佐藤優著 資本主義の極意

2017年1月20日 
読了時間:3時間

今年になって初めて書店を先日訪れたので、早速新書を何冊か買ってみました。そのうちの一冊を昨日速読の練習に使ったので、それについて書きます。

内容について
この本は、マルクスの資本論と宇野さんという経済学者の理論を組み合わせて資本主義を分析し、資本主義の分析を通して現代社会で起こる様々なことを読み解こうという試みです。
両者の理論を組む合わせる背景としては、資本主義の発展を考えたとき、その核心といえるマルクスの理論は資本主義の起源としてのイギリスでの資本主義の分析には非常に役立つものの、イギリスの資本主義化に影響を受けて後発的に資本主義を発展させてきた日本やその他多くの諸国の資本主義を分析するためには不十分であるためでした。
宇野氏は、資本主義を分析する際には、原論、段階論、現状分析、という三段階の分析を経なければならないと考えており、マルクスの資本論のみによると、原論と現状の間の過程である発展段階が理解できないことになります。こういった理由から、マルクスと宇野氏の理論をこの本では採用しているようです。
まず、マルクスの資本論から資本主義の根幹にあるのは、「貨幣の資本化」という現象と、「労働の商品化」という二つの現象です。
貨幣が生まれる前は、商品が唯一の資本であり、商品が買い手にとってもつ持つ使用価値に基づいて商取引が行われていました。つまり、買い手にとっての実用性と必要性が価値の基準であり、それは安定しないものでした。しかし、しばらくして「貨幣」が生み出されます。貨幣の特徴は「一般的等価物」である、ということです。簡単に言えば、貨幣は使用価値という基準にとらわれることなく、何とでも交換ができうるものであるということです。
そして、貨幣の導入によって商取引のプロセスは、
商品Aー商品B
という過程から、
商品A-貨幣ー商品B
というプロセスに変わっていきました。
加えて最後には貨幣それ自体が資本(何かを手に入れる元手)になっていきました。
これを「貨幣の資本化」と呼びます。

この貨幣の資本化に加えて資本主義の発生にとって肝要なのが、「労働の商品化」でした。この背景には「無産階級(プロレタリア-ト)」の出現があります。むさんかいきゅうというのは、富を生産するための土地も工場もなんの商品も持っていない階級のことで、イギリスでは農民の解体が多くの無産階級を生じ、それが資本主義の発生の起源となりました。無産階級は文字通り何も持っていおらず、唯一資本を生産する手段が労働でした。故に彼らは自分たちの労働を切り売りして生計を立てるようになります。これが「労働の商品化」です。
(一つ重要なことは、プロレタリアートにとって、唯一の商品が労働であり、賃金は労働の対価である、ということである。言い換えれば、賃金というのは、資本家が得た利潤の再分配ではないということである。利潤を受け取る権利は理論上は労働者にはないのである。それでは、労働の価値はどのように決定されるのか、といえば、3つの基準がある。それは、生活にかかるお金=労働力を再生産するためのコスト、教育費=労働者階級を再生産するためのコスト、そして、発展する社会に追いつくための自己教育費というコスト、であり、それらのすべてをカバーすることが正当な賃金としての条件である。よってもしもこの3つが満たされないのであれば、正当な賃金を得ていないということになり、賃金の上昇を要求することができることが理論上は言える。しかし、現実問題として、必ずしもそれが実現されているわけではない。)

資本主義は、資本家たちが無産階級の人間たちを使って、資本を増やしていく社会を指します。そのため、資本家たちはひたすら資本を増やそうと努力をするわけですが、次第に資本が過剰に生産されすぎて余剰な資本が生じるようになります。そうすると、資本家たちはより生産の規模を大きくして余剰の資本も投資をして更に多くの資本を得ようとします。しかしそのためには多くの労働者を更に雇わなければならなくなるため、コストも増えます。その結果、恐慌が起こるのだそうです。曰く、資本主義の発展の仕方を考えたときに恐慌は定期的に起こることが必然であります。そして、その定期的な恐慌があるからこそ、資本家は工夫をし、イノベーションによって恐慌を避けるため努力をし、資本主義は更なる発展をしていきます。

ここまでは、資本主義の原論的な部分をマルクスの分析に基づいて考えて来ました。ここからは少し、宇野氏の理論に触れていきます。

宇野氏が考えたのは、マルクスが分析した資本主義が、現在に至るまでどのように発展して来たのか、という発展の段階的な理解に関する理論です。そして、資本主義の発展には「重層主義」「自由主義」「帝国主義」という過程を経て発展をしてきており、そのそれぞれの段階では、各々国という存在が生産とそれぞれ固有の関わり方をしているということでした。簡単に言えば、国との強い結合から始まった重層主義の資本主義が、国からの制限が弱くなり自由主義的な資本主義が発展し、その後、再び国家が大きく関与をしてきて国家間の競争に特徴される帝国主義的な資本主義に変容するという流れがあります。
ところが、ロシア革命など社会主義が世界の流れとして表面化したとき、資本主義をいじするために国家は労働者を保護するべく資本化に制限をかけたので一時、自由主義的資本主義は勢いを弱めました。しかし、ロシアの社会主義革命が失敗に終わると、それを境に自由主義的な資本主義が再び熱を持つようになります。その結果、現在の資本主義は新自由主義的であり、且、帝国主義的でもある、という風変わりな様相を見せています。

資本主義に代わる新しい社会構造は、近い未来には生じることはない、と著者は言います。だからこそ、資本主義とうまく付き合って生きていかねばいけません。
こうした資本主義の分析に基づいて、世界を理解し、自分の人生を生きていくことが必要である、ということが、著者がこの本を通して伝えたかったメッセージであります。

コメント

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