ロバート・マートン 社会理論と社会構造

ロバート・マートン 社会理論と社会構造


序論


マートン曰く、本書の主要な関心は理論と調査の統合、並びに、理論と方法の系統的整理である、という。
①理論と調査の統合―について
まず、社会学という科学において、今まで蓄積されていた理論を批判的に見るまなざしの重要性を強調する。
“実際に役に立つ社会学の理論と社会学説史との魅力的ではあるが宿命的な混同は、理論と学説史の、それぞれ異なった機能を認識するならば、ずっと以前に駆逐されていたであろう。(中略)だが、ここに異様な事実は、社会学では、理論の歴史と現在通用している理論の、明白な区別がいたるところでつけられていない、ということである。”

そのうえで、社会学が物理学などの他の諸科学と比較して、未だ胎動期にあることを指摘したうえで、その社会学にとってより重要な理論を見分けるために、「中範囲の理論」を提案する。
中範囲の理論とは、“一定の限られた範囲のデータに適用できる特殊な理論”である。これは、社会学という科学の全範囲にわたる問題を解決し得るような全網羅的な全範囲の理論と対を成すような理論を指している。いわば、社会学という科学の全体とそれに含まれる個々の具体的な経験とを、全体としての一貫性を保ちつつ媒介するような理論のことだ。
マートンによれば、社会学はこれまで、中範囲の理論ではなく、全範囲の理論を作り上げることばかりに注力してきた。こうした傾向は、社会学に取り組むものが、社会学を物理などの先進科学と同じ水準に発達したものであり、もしくは、少なくともそうあるべきであると誤謬を犯しているためにもたらされたものである。しかし、実際には社会学は未だ生まれたばかりの未熟な科学であるから、社会学はかつて他の科学がそうしてきたように、中範囲の理論に道を譲らねばならないのだ。
“社会学の理論は二つの相互に関連のある局面において―一定の範囲の社会的データに適用し得る特殊理論を通して、またこれらいくつかの軍の特殊データを統合することのできる、一層一般的な概念図式の進化を通して、前進してゆかなければならない。”

②理論と方法の系統的整理―について
理論と方法の系統的な整理とは、文字通り、社会学における方法とそうした方法を通して生成されてきた理論をどのように一貫性を持った体系として整理をするか、についてである。

“ここに言う意味の整理とは、研究の手続きに関しまたこの手続きをもしいて出て来た実質的な成果に関する、組織的な実のある経験の、順序を踏んだ緊密な排列である。”

こうした系統的な整理のために、マートンが重視するものが「分析的範例」(範例―模範となる例)だ。即ち、方法における統一的な形式が重要である、と述べているのである。具体的な範例に関しては、本論の幾つかの章の中で述べられているわけであるが、序論においてマートンは、後に紹介されるいくつかの統一的形式が“社会学的な分析の用いる想定や概念や基礎的な命題の全陳列を誰の目にもつくように外の明るみに引き出してくれる”と言う点において大きな価値を持つという。

社会学の研究は、社会における事象の解釈の上に成立してきたが、解釈の枠組みは暗示的であり、非常にわかりにくいものであることが多かった。しかし、客観的な科学においては分析や解釈のプロセスは明示的であり再現可能であることが求められる。それ故に、マートンは本論において紹介するいくつかの形式的な範例が科学としての社会学にとって大きな意味を持つ、ということを強調しているのだ。

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