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R.マートン 社会理論と社会構造 第5章 社会構造とアノミー(続き)

第 5 章 社会構造とアノミー(続き) 第一節 アノミーの拡大概念 デュルケムが提示したアノミーという概念は社会における相対的な無規制状態を意味していたが、アノミーという言葉が通俗化されるにつれ、その意味も拡大されるようになる。 まず、社会の状態を指す社会学的な言葉であったアノミーが心理学的な言葉として用いられるようになった。心理学的概念としてのアノミーは社会状態ではなく、特定の心的状態を指す言葉として用いられる。ただ、こうした心理学的なアノミーは社会学的なアノミーの概念とは別の側面をなるものであり、社会学的な概念を代用することはできない。 前章で展開したアノミーの概念は以下を前提とする。「個人の主だった環境は、一方に文化構造(“特定の社会ないし集団の成員に共通な行動を支配する規範的価値の組織体-前章での文化的目標と規範を含む)があり、他方に社会構造(社会または集団の成員が様々な仕方で関わり合う社会関係の組織体―階級の構造などを含む)がある。」そして、アノミーへの傾向は文化構造と社会構造がうまく統合されないで、文化構造が要求する行為や態度(文化的目標)を社会構造(階級構造など)が阻んでいるときに生じる。 前章ではアノミーを引き起こす過程の例をあげ、そうした状況に対する対応の様式に言及した。そのうえで、階級構造とそれらの適応様式の間にある関係についても触れた。そしてこの前提にあるのは、階級構造がアノミーの状態へ陥る程度を異にするだけではなく、アノミーへの反応の仕方を異にしているということである。更にパーソンズたちは逸脱行動そのものも、型式化されている、と主張する。逸脱的行動の諸類型の分類はごく最近に発達したもの(当時)であり、経験的実験において広く活用されなければならない。 第二節 アノミーの標識 アノミー概念を経験的調査に利用するにはアノミーの観察可能な標識を整理する必要があり、その取り組みはいくつかの社会学者によって取り組まれてきた。主観的に経験されたアノミーの標識を個人の知覚や経験に基づいて整理したり、客観的状態としてのアノミーを統計的な情報に基づいて整理をしたりと、試みはいくつかあるものの、まだまだ改善の余地が大きい。 第三節 アメリカ文化における成功のテーマ アノミー的な状況というのはその目標の内容に関...

R. マートン 社会理論と社会構造 第4章 社会構造とアノミー

第 4 章 社会構造とアノミー まず、この論文の主要な目的はこれまで社会的逸脱に対して学術界から支持されてきた「フロイト的前提」(社会の構造は、本来、人間の固定した生得的な衝動の自由な表現を抑制するもので、そのため、人間は自由を得ようとして周期的にこの抑制に大っぴらな反抗を試みる、という前提―構造によって押さえつけられた人間の生得的な欲求の欲求不満が引き起こす、構造に対する反抗が「逸脱的行動」であるという心理学に基づく前提)に立つ心理学的な説明を批判し、それとともに社会的逸脱に対して社会文化的構造に着目した原因分析を行うことにある。(心理学的説明に基づくと、逸脱は社会構造に関係なく社会に一様に、且つ、特定の集団などに偏在することなく存在することになる。) (余談であるが、社会的逸脱を客観的な存在と考える基礎づけ主義的な存在論と、それに対して量的なデータを用いて原因分析を行おうという姿勢は典型的な実証主義的認識論に立脚している。 1930 年代に書かれた論文であることを考えるとそれは当然であるが、読了に当たってはそうした認識論を視野に入れつつ読み進めることが、効果的な批判や建設的な議論を行うにあたっては重要なステップであるといえる。) 第一節 文化的目標の型式と制度的規範 まず、社会的逸脱やアノミーを考えるに当たって二つの社会文化的構造の諸要素の中でも 2 つがより重要である。一つは文化的に価値を置かれている「目標」であり、もう一つはそうした目標を達成するにあたって用いられる手段に対する文化的・制度的な「規範」である。後者はどのような手段が社会的文化的に正当であるか、と規定する規範である。また、正当な手段はその効率性などからは独立している。(たとえ効率性が高いからと言って特定のな手段―暴力的手段など―が常に正当化されている、と言うことはない。) そして、この二つの要素の間には常にバランスがとられているということはなく、それぞれがそれぞれのダイナミックスをもっている。それ故にある社会では「目標」のみがアンバランスに強調され、一方で「規範」がなおざりにされてしまっている。逆もまた然りである。 「目標」ばかりがアンバランスに強調され、「規範」が影を潜めているような社会では、人々は目標を達成するためには手段を選ばなくなりそのため、効率性を重...